コラム





 住まいは、無限の空間を自己のために仕切ったものである。だから、仕切られた内にも空間はできる。床、壁、天井の六面で仕切るのだから、より空間意識は強くなると言えよう。それだけに、内部空間の内容は住む人に様々な影響を与えるのである。
 毎日住む家には、よほど注意しないと退屈になったり、圧迫感があったり、神経を逆なでしたりして、心理的、生理的に悪影響を及ぼす。だから住まいを設計するとき、人間の心理に、生理にやさしい空間の仕切り方、材料の選択と組み合わせ、ディテールを考えるのである。そしてその骨格をなすものは、空間のバランスである。しかしそれだけでは、日常生活から見たやさしさは見出せない。無意識の動作や使い勝手という、“生(なま)”の部分が住まいには必要なのである。
 様々な要素を空間の中に盛り込めば盛り込むほど、相互の関係はより複雑になってくる。そこで余計、バランスが大切になってくる。仕切るから狭くなっていくのだが、その一方で拡がりが必要になってくる。低い部分がでてくるから高い部分も必要になってくる。明るさだけでは落ち着かないから懐の深さ、暗めの部分も必要になってくるのだ。そのために、空間をどう仕切るかに腐心するのである。抜けた部分と壁の位置や量、奥行きの深さと天井の高さのバランス、勾配の角度と壁高、壁幅とのバランスなどなど。特に高さには細心の注意を払う。様々な部分の高さ(低さ)によって、空間の見え方が大きく、あるいは微妙に違ってくるからだ。そして住まいという複雑な要素の集合体をバランスさせるために、空間や個々のモノたち、材料が勝手に存在主張しないような“程のよさ”が必要なのである。



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