コラム













 今の都会では望むべくもないが、ひと昔前はどこでもちいさな森が点在していた。そんな森で子供の頃、格好の大木を見つけてはターザンの映画で見た樹の上の棲の真似事をしたものである。シイやクスノキ、タブといった常緑広葉樹は、外から見ると鬱蒼として暗く見えるのだが、それが隠れ家には最適で、樹の上の棲からは驚くほど明るい展望が開けていた。
 人間の落ち着く場所というものは、子供の頃も大人になっても、そんなに変わるものではないと思う。適度に隠れていながら、中からは外に向かって広大な視界が我がものとしたい―といった…。そんなイメージをさり気なく住まいに採り入れてみる。太い幹を背にした安心感、枝々の間から射し込む陽光のリズム、自然の樹形が見せる空間の変化、心地よく抜けるそよ風などなど。
 建築には制約が多い。特に都会では、敷地と予算からくる制約の中で、錬金術師のようなテクニックが要求される。自由とか、のびやかさとは程遠い状況ではあるが、制約が多いほどその価値は大きいと思う。小住宅では往々にして総2階的な形態をとらざるを得ないが、そのようなとき、自由の獲得のために2階にリビングルームを上げることが多い。2階は樹上の棲に似た世界をつくり出せるからだ。上に建物が載らないから自由で変化に富んだ天井を考えられるし、四方へも、上方にも開口を取ることができて、木々の間からの展望や光と陰を再現することもできる。制約を逆手にとって楽しんでしまうのも、自然流の設計手法なのである。






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